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喫茶店で出会った年下の幼妻が先輩の恋人ごっこに応じてから夫の電話越しに肛門を裂かれるまで

寝取られ(NTR) / 覗き・いたずら 全6章 約76分で読了(37,880字) 2026年10月4日

あらすじ

喫茶店で働く二十二歳の若妻に、大学生の俺は密かな想いを抱いていた。夫を愛し、娘を慈しむ彼女の無防備な笑顔を。だが遊び人の先輩が彼女に近づき、恋人ごっこの手管で少しずつ距離を詰めていく。俺は止められず、見せられる映像から目を逸らせない。

第1章 アヒル口の微笑みと休憩室の熱

第1章のシーン

第1章: アヒル口の微笑みと休憩室の熱

六月の午後、喫茶店「花水木」の店内は、ドアベルが鳴るたびに外の蒸した空気が流れ込んで、カウンターに立つ俺の首筋を汗ばませた。エアコンの風は生ぬるく、コーヒーの香ばしい匂いに混じって、少し甘いミルクの匂いが漂っている。若葉は、カウンターの向こうから常連客に微笑みを向けていた。小さな口元がきゅっと結ばれて、笑うと上唇がひょいと突き出す。アヒル口、と呼ぶには柔らかすぎる、あの口元。ほんのり赤い唇が、言葉を紡ぐたびに小さく湿って、かすかに光る。

「はーい、ブレンドお待ちどうさま。今日はね、ちょっと深めに淹れたの。香り、わかるかなあ」

そう言ってカップを差し出す後ろ姿を、俺はカウンター越しに眺めていた。若葉は身長が百五十センチもない、華奢な体つきで、白いブラウスとベージュのカーディガン、膝丈のフレアスカートが、喫茶店の古めかしい木の色によく馴染んでいた。肩下までの柔らかな栗色の髪が、動くたびにふわりと揺れて、琥珀色の目がふにゃりと細まる。二十二歳で結婚して、一歳になる娘がいると聞いたときは、本当に驚いた。童顔で、小倉優子を思わせる幼い顔立ちの彼女が、子持ちの若い母親だなんて、初めて会った頃は信じられなかったほどだ。

でも、若葉は誰よりも幸せそうに、夫と娘のことを話す。

「昨日ね、陽菜がね、旦那に抱っこされて、いないいないばあ、ってされただけで、きゃっきゃって笑って。もうね、可愛くって可愛くって、写真撮るの忘れちゃったの」

カトラリーを並べ直す手を止めて、俺はその声を聞き流していた。いや、聞き流せるはずもなくて、聞き入っていた。若葉の夫は健一という三十二歳の会社員で、若葉より十歳も年上だ。見た目はごく普通の地味な男で、正直、若葉にはあまり釣り合っていないと店の連中も噂している。でも、若葉はあの人のことを心から大事にしていて、浮気まがいの誘いを何度もきっぱり断ってきたという話だった。実際、常連客の一人が、半ば本気の口説き文句をアルバイトの彼女に投げかけたことがあったけど、若葉は首を傾げるばかりで、相手の意図に一ミリも気づいていない。天然だ。無防備だ。それでいて、一途で、なんの裏もない。

「田中くん、聞いてる?」

若葉が振り向いて、俺の顔を覗き込んだ。アヒル口が、ふにゃりと綻んでいる。長い睫毛が影を落として、琥珀色の瞳が近くで揺れている。俺は息が詰まるのを感じながら、慌てて「聞いてるよ」と頷いた。

「陽菜ちゃん、元気でいいですね」

「うん、すっごく元気。でもね、最近ずり這いが始まって、目が離せないの。バイト中も気になっちゃう」

若葉の首筋には、ベビーパウダーのような甘ったるい匂いがまとわりついていた。たぶん、家を出る前に娘を抱きしめてきた名残だろう。白いブラウスの襟元から覗く鎖骨は薄く、汗でほんのりしっとりと光っている。俺は無意識に視線を外した。彼女を長く見てはいけない、そう自分に言い聞かせるように。

俺がこの喫茶店で働き始めて半年になる。大学二年の夏前に始めたバイトで、若葉とはシフトが被る日が多かった。彼女は主婦なので、平日の昼間だけ入っている。だから、水曜と金曜の三時間だけが、俺の一週間のすべてだった。その三時間のあいだに、若葉が夫の話をして、娘の話をして、ときどき俺に「田中くん、あのドラマ見た?」なんて無邪気に訊いてくる。俺は、あと少しで領収書の名前を間違えそうになるほど、その声に心を掴まれていた。

もう二十歳にもなって、これが初めての本気の片思いだ。相手は人妻で、一歳の子供がいて、俺なんかよりずっと大人の世界にいる人で、つまり最初から届くはずのない人だ。それでも、若葉があのアヒル口で笑いかけてくれるたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。もっと話したい。もっと名前を呼ばれたい。たったそれだけの望みを、俺は今日も抱えてレジに立っている。

「あ、桐生さん」

若葉が急に顔を上げて、店の入口に向かって手を振った。俺はぎくりとして、後ろを振り返る。ガラスのドアをくぐってきたのは、長身の男だった。濃い茶色の髪を短く削り、切れ長の黒い目を愉快そうに細めている。黒いタンクトップに薄いライダースジャケットを羽織り、細身のデニムを履いた、いかにも夏前の大学生らしい軽薄な格好だ。桐生先輩。俺と同じ大学に通い、この店でも長くバイトをしている二十五歳の先輩だ。バイトを紹介してくれたのも先輩で、女の子には滅法モテるが、特定の相手をとことん大切にするタイプではない。何人もの女を泣かせてきた遊び人で、今もたぶん、同時進行で二、三人と遊んでいる。

「若葉ちゃん、今日も可愛いねぇ。そのカーディガン、似合ってる」

桐生はカウンターに肘をつくと、若葉の顔を上から覗き込むようにして言った。若葉は、またあの無防備な笑い方で、えへへ、と首をすくめた。

「似合ってるかなあ。旦那のお古の服みたいなもんだよ」

「はは、それは勿体ない。若葉ちゃんが着ると、すごく柔らかい感じが出るのに」

俺はレジの画面を見つめるふりをしながら、二人の会話を聞いていた。桐生先輩の声は低くて、耳の奥にねっとりと残る。女性を沼に引きずり込むとき、こういう声で囁くんだろうな、と余計なことまで考えてしまう。先輩が若葉と親しげに話すようになったのは、彼女が店に入って一ヶ月も経たない頃からだ。それから、シフトの合間には必ずと言っていいほど話しかけている。先輩の女癖を知っている俺からすれば、あれはただの世間話には見えない。若葉を落とすつもりだ、と気づいたのは、先月、先輩が彼女の胸元をちらりと見て、にやっと笑った瞬間だった。あの目は、獲物を見つけたときの目だ。

でも、若葉にはそれが分からない。天然なうえに、人を疑うということを知らない。

「桐生さん、昨日ね、陽菜がね──」

若葉は無邪気に娘の話を始めた。桐生は「へえ、すごいじゃん」と相槌を打ち、ときどき若葉の肩に触れるか触れないかの距離で笑いかける。先輩は俺のこともチラリと見て、口元を歪めた。

「田中、なに辛気臭い顔してんだよ。お前もこっち来て話せば」

俺は愛想笑いを浮かべた。

「いや、レジの釣り銭が合わなくて、それどころじゃないっすよ」

嘘だ。釣り銭は合っている。ただ、先輩と若葉のやり取りを見ていると、胸の内側に黒いものが溜まっていくのを感じた。嫉妬、と呼ぶにはみっともなくて、認めたくない感情が、胃のあたりをしくしくと刺す。

結局、桐生先輩は若葉と二十分ほど立ち話をして、店を出ていった。去り際に若葉の背中に手を触れたのを、俺は見逃さなかった。若葉はくすぐったそうに笑って、その手を振り払うでもなく、むしろ嬉しそうにしていた。なんの裏もない、ただのスキンシップ。彼女にとってはきっと、それだけだ。でも、俺にはその光景が薄気味悪く映る。先輩の長い指が、若葉の細い背中に触れた。あの指が、もっと別の場所へ伸びていく。そんな想像をしている自分に気づいて、俺は頭を振った。

閉店は十八時。その日は、若葉の旦那が少し遅くなるとかで、若葉は十七時半を過ぎた頃に、店の隅でスマートフォンを耳に当てていた。俺はバックヤードの手前で、こっそりその声を聞いてしまう形になった。

「うん、陽菜は大丈夫。ばあばが来てくれて、もう寝かしつけてもらったよ。うん、うん。……あのね、わかった。じゃあ、また後でね。……うん。愛してるよ」

最後の言葉は、ひときわ柔らかく、音が溶けていくみたいだった。俺はその場に立ち尽くした。若葉が夫に向ける「愛してる」。その声を聞いて、どうして俺の胸がこんなにきゅっと痛むんだろう。彼女が誰を愛しているか、最初から分かっていたはずなのに。あの声は、俺に向けられたものじゃない。それだけで、目の前がすっと暗くなる。

「あれ、田中くん、どうしたの? もう帰る準備した?」

後ろから声をかけられて、俺はびくりと肩を震わせた。若葉が、カーディガンを脱いで腕にかけた格好で立っている。白いブラウスの下から、柔らかな体の線がうっすら透けていた。俺は咄嗟に目を逸らした。

「あ、いえ、ちょっとトイレ行こうかなって」

「そっか。今日さ、桐生さん、すごく面白かったね。途中から陽菜の話ばっかり聞いてくれてさ。ほんと、優しい人だよ」

若葉が、あの無防備な笑顔でそう言う。桐生先輩は優しい人だよ。その言葉を、俺は信じられなかった。だって、先輩は女の子をゲームみたいに堕として、飽きたら捨てる人だ。俺は若葉に、先輩には近づかないほうがいい、と言わなければと思っていた。でも、言えない。言ったところで、若葉はきょとんとするだけだ。そして、「桐生さんは誤解されてるだけで、本当はとっても優しいんだよ」と笑うに決まっている。

俺が突っ立ったまま何も言えないでいると、若葉は首を傾げた。

「田中くん、なんか、今日変だよ。大丈夫?」

「大丈夫っすよ。ちょっと、頭痛いだけで」

嘘だ。頭なんて痛くない。心のほうが、ずきずきしている。

若葉は「あら、気圧のせいかな」と呟いて、小さな両手を胸の前で組んだ。その指先が、白くて、細くて、触れたら折れてしまいそうだ。俺はこの指を握ったことがない。握るどころか、触れたことすらない。それなのに、他の男が彼女に触れる姿を見るだけで、体の内側がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。おかしな話だ。

やがて、若葉は更衣室へ向かい、俺はホールに残ってテーブルを拭いた。外はもう薄暗くて、梅雨前の湿った空気が窓ガラスに白く曇っていた。店内には、閉店後の静けさが沈んでいる。いつもはすぐに帰る俺だったが、今日はどうにも動けなかった。

──あの声が、耳に残っている。

「愛してるよ」

若葉の、夫に向けた言葉。その言葉が、熱い煤みたいに胸の奥を焦がす。決して俺には向かない言葉。なのに、何度も反芻してしまう。もし、あの声が俺に向けられたものだったら。もし、あのアヒル口が、俺の名前を形作ることがあったなら。そんな、到底ありえない想像を、俺は止めることができない。

十五分ほどして、更衣室のある方向に足を向けた。ロッカーに置いてきたタオルを取りに行くつもりだった。休憩室を兼ねたその場所は、カウンターの奥、従業員用の狭い通路を曲がった先にある。蛍光灯の切れかけた安っぽい明かりが、ドアの下から細く漏れている。俺が何の気なしにドアへ手を伸ばしたとき、中から声がした。

「やだ、桐生さん、もう、そこは……」

若葉の声だった。語尾だけ笑いを含んでいて、困っているような、声を潜めているような。俺の手はドアノブに触れたまま、息を止めた。

「ここ? ここが好きなんだ?」

桐生先輩の低い声。続いて、衣擦れの音と、若葉の短い息。何をしているのか、俺にはすぐに分かってしまった。分かってしまったから、指先が動かなかった。心臓が、耳のすぐ裏で鳴っている。

「あ、んっ、ちょっと待っ、本当に、だめ、だめなの……ふふ、くすぐったいってば」

若葉が笑いながら拒む声が聞こえる。強く拒んでいない。本気で嫌がっていない。それが、もどかしい。ドアの隙間から少しだけ見えたのは、壁際に追いやられた若葉の背中と、その両肩を掴む先輩の長い腕だった。

「強くしてるつもりはないよ。ただ、若葉ちゃんのこれ、柔らかいなって思って」

「も、若葉ちゃんって呼ぶの、ちょっとやですよ……」

「なんで? 旦那みたいに呼ばれたい?」

「そういうんじゃないの……んぅ」

若葉の声が、不意に濡れた。唇を塞がれた。軽く、触れるだけの口づけ。でも、確かに唇は重ねられている。あまりにも無防備なその仕種に、俺の視界が細くなる。

「ん、……も、何するんですかぁ、桐生さん……」

若葉は甘えた声でそう言って、くすくす笑った。本気で嫌がっていない。あれは、冗談の延長だと思っている。思っているに違いない。違う、それとも、もしかしたら、心のどこかで許しているのか。彼女は夫を愛している。その愛が、こんな軽い手ほどきで揺らぐはずがない、と、信じたい。でも、もし揺らがないなら、その胸に触れる手を笑って眺めているはずがない。

桐生先輩が、若葉の耳元で囁いた。声は低すぎて、俺には内容までは届かない。ただ、若葉が小さく身じろぎをして、くちびるを開いたようだった。あの形のいいアヒル口が、何かを言いかけている。呆然とする俺の前で、先輩の肩が動いて、若葉の手首が小さく跳ねる。白いブラウスの胸元に、男の指先が沈んで、形を変える。

若葉は笑っていた。困ったように、嬉しそうに、そういう微妙な笑い方で、身をよじっていた。

それ以上は見ていられなかった。俺は痕跡を残さないように、ゆっくりとドアから手を離した。指先が、びりびりと痺れている。喉が渇いて、めまいがしそうだった。だめだ。今、このドアを開けたら、若葉はどんな顔で俺を見るんだろう。それとも、平気な顔で「あれ、田中くん」なんて言うのだろうか。

俺はその場を離れた。足音を立てないように、なるべく静かに。でも、心の中は嵐でいっぱいだった。若葉の「愛してるよ」という声と、桐生先輩に触られても抵抗らしい抵抗をしない笑い声。二つの音が、割れた鏡みたいに胸の中でぶつかっている。彼女を守りたい、なんて思う資格すら、俺にはない。だけど、見てしまった光景を、なかったことにもできない。先輩の指が、彼女の胸に触れていた。唇が、彼女の唇に重なっていた。あの人は、若葉を狙っている。絶対に、間違いがない。

店を出たとき、外は小雨が降り始めていて、アスファルトが黒く濡れていた。傘は持っていなかったけど、濡れるのすら気にならないほど、頭の中が熱かった。耳鳴りみたいに、彼女のくぐもった声が蘇る。あの、笑いながら吐いた息の音。背中がむずむずして、体の芯が妙に熱い。なんで、俺は今、こんなに鼓動が早いんだ。怒りか、嫉妬か、それとも別のなにかか。誰かを嫌悪しているはずなのに、心の隅でもっと深く何かを見たいと強請る自分がいる。その欲望だけは、なかったことにしたかった。なかったことにして、今夜は眠ってしまいたかった。

自宅のベッドに倒れ込んでからも、瞼の裏には若葉のアヒル口が焼き付いていた。「愛してるよ」と呟く声が、あの狭い休憩室の空気と混ざり合って、耳の奥にこびりついている。俺は眠れないまま、六月の湿った闇の中で、何度も寝返りを打った。窓の外では、静かな雨音が続いている。このもどかしさと、見てはいけないものを見てしまった興奮とが混ざり合った熱を、俺は朝まで抱えたまま眠れなかった。

第2章 恋人ごっこという名の罠

第2章のシーン

第2章: 恋人ごっこという名の罠

七月に入って最初の週末、俺はいつものように喫茶店「花水木」のカウンターに立っていた。梅雨明けを思わせる日差しが窓を白く灼いていて、アスファルトから立ち上る陽炎が店の前をゆらゆらと溶かしていた。冷房の効いた店内には、昼下がりの客がまばらに散らばっている。あの日、休憩室の扉の向こうで見てしまった光景が、俺の頭の中から七日経った今もこびりついて離れない。若葉の小さな背中に回された桐生の腕。笑いながら首を竦める彼女の、あの声。夫に「愛してるよ」と電話した直後の唇へ、別の男の唇が触れた事実。けれど当の若葉は、いつもと少しも変わらない笑顔でカウンターに立ち、常連客にブレンドを運んでいる。その無邪気な振る舞いに、俺は救われるような、それでいて底知れない不安を掻き立てられるような、どちらともつかない心地でいた。

そこへ、店のドアが軽やかな音を立てて開いた。振り返るまでもない。桐生の漂わせる、あのヴェルサンスみたいな整えられた香水の匂いが、冷房の風に乗って流れ込んできたから。

「田中、お前また眉間に皺寄せてんのか。老けるぞ」

桐生はカウンターの端、いま空いたばかりの二人席に腰を下ろすと、俺を横目で揶揄うように笑った。

「先輩こそ、今日はどうしたんスか。シフト外でしょ」

「ん、まあな。ちょっと買い物のついで。あと、若葉ちゃんが今日入ってるって聞いたから、顔見に来た」

そう言って桐生は、キッチンの奥で食器を下げている若葉の名を、わざと聞こえるような声で呼んだ。若葉は弾かれたように顔を上げ、桐生を認めると、両手に持ったトレーを胸の前でぎこちなく抱えながら近づいてきた。

「あっ、桐生さん、いらっしゃいませ。今日は全然シフト違うのに、どうしたの?」

「そっちこそ、今日は一段と可愛いね。暑くなってきたから薄着になったんだ?」

確かに、若葉の今日の装いは一ヶ月前までとは少し違っていた。白いブラウスの第一ボタンが外されていて、汗ばんだ鎖骨のあたりが店内の光を受けて淡く浮いている。首元に下がった小さなペンダントが、息のたびにきらりと揺れた。若葉は桐生の視線に気づくと、片手で襟元を軽く抑えて俯いたが、その指先に力が入っていないのを俺は見てしまった。

「や、そんな。ただ洗濯物が溜まってて、ちょっと涼しい服にしただけだよ」

「その選択は正解だな。若葉ちゃんは白が似合う」

二人の間に、俺の知らない軽やかな空気が流れていた。まるで、幼い頃に分け合った秘密の合言葉を確認するみたいな、くすぐったそうな間。俺は冷たいグラスの水滴を拭きながら、会話に加わることもできず、カウンター越しに二人の姿を映す黒いシロップの瓶を見つめていた。

店を出ると、外の熱気は湿ったマシュマロのように身体へまとわりついた。陽菜が熱を出したとかで、若葉は夕方のシフトを早退した後だった。俺はというと、桐生に「近くまで来てるなら話でもしろ」と半ば命令めいた口調で呼び出され、駅前のカフェの前で立ち尽くしている。いつの間にか陽は傾き、空はまだ明るいオレンジを溶かしていたが、風はどこか生温く、シャツの背中をじわじわと水で塗るようだった。桐生が遅れてやってきて、俺の顔を見るなり笑いながら「大学生協のアイスコーヒーより旨い店がある」と、路地裏の小さなカフェへ俺を連れて行った。

店内は薄暗く、壁には古いレコードジャケットが不規則に飾られていた。桐生は窓際の革張りソファに深く沈み込むと、冷えたグラスを指先で遊びながら、にやりと口を開いた。

「お前さ、この前の休憩室のこと、見ただろ」

俺の心臓が、無遠慮に扉を叩く。言葉より先に、手にしたグラスが汗をかく音がやけに近く聞こえた。

「……見てないですよ、何の話スか」

「嘘つくなよ。ドアの前、気配でわかった。まあ、いいんだけど」

桐生は氷を歯で割りながら、目だけで俺を試すように見る。

「で、若葉ちゃん、今日も可愛かったろ。あの白いブラウス、お前が言ったわけじゃないんだぜ。俺が先週、それ着てこいって言ったんだ」

俺の指先が一瞬冷たくなる。桐生が若葉に何を着るかを指定した。それは単なる好意の言葉では済まない、所有の文法だった。

「……何考えてるんスか、先輩。あの人には旦那も子供もいるんですよ」

「知ってるよ。お前、俺のこと誤解しすぎなんだよな。俺はただ、恋人ごっこを提案しただけだ。若葉ちゃん、けっこう寂しがっててさ。旦那は仕事、仕事で全然構ってくれないんだと。あのでっかい建物に、若い奥さんと小さい子供が二人きりでさ。俺はあの子の話を聞いてやるただの先輩ってわけ」

桐生の口調は軽やかで淀みがない。その滑らかさが、逆説的に、ここ数週間で事態が着実に動いていたことを俺に知らせる。

「恋人ごっこって、何をするんスか」

「デート。手を繋いで、人通りの多い道を歩く。それだけ」

「それだけ、って……」

「お前が思ってるより、ずっと無害だろ。休憩室でちょっと触ったのも、若葉ちゃんが笑ってたから冗談で続けてただけだ。あの子は俺が触っても、まんざらでもない顔するんだよなあ。……それ、何だと思う?」

俺はグラスの冷気を喉へ流し込みながら、目を伏せた。桐生が言っているのは、若葉の無防備な笑顔のことだ。あの、誰よりも善良で、誰よりも無垢で、その無垢のせいで危険な匂いしか感じ取れない笑顔。

その週のシフト中、若葉はカウンターの中でうつむき加減に俺へ話しかけてきた。閉店前の、客の途切れた時間だった。

「ねえ、田中くん。私ね、この前、桐生さんと映画観に行ったんだ」

若葉の声には、小さな報告をする子供のような響きがあり、それが俺の胸を掻き毟る。

「……映画スか。良かったッスね」

「桐生さん、チケット予約してくれててさ、窓際の席でね、途中、私が眠くなったら、肩を貸してくれたの。すごく、落ち着く人なんだよ」

「若葉さん、旦那さんが居るのに、他の男と映画って、俺はあまり良くないと思うけど」

若葉はハッとしたように俺の顔を見た。琥珀色の瞳が、店のオレンジの照明を吸い込んで、よく見るとその奥に薄い翳りが滲んでいる。

「だって、恋人ごっこなんだよ。本当の浮気じゃないの。……桐生さんが言うには、私みたいな寂しい人は、まず男に褒められることに慣れたほうがいいんだって。そしたら、旦那とももっと上手くいくって」

「本気にしてるんですか、そんなこと」

「……え?」

「恋愛に、ごっこも本当もないですよ。手を繋いで、肩を抱かれて、それで何も起きないと思いますか」

若葉は唇を開いたまま、暫く俺を見つめていた。アヒル口が、何かを言おうとして言葉にならぬまま、ふるふると震えている。その唇が、一ヶ月前、夫に「愛してるよ」と囁いた唇と同じ色をしていると思うと、俺は自分がひどく卑しいことを言った気がして、目を逸らした。

「……田中くん、私のこと、心配してくれてるんだよね」

「当たり前ッスよ」

「でも、桐生さん、本当に優しいんだよ。私が陽菜の鼻水が止まらないって言ったら、病院の空いてる時間まで調べてくれて。旦那はそんなこと、してくれたことなくて」

「それは優しさなんかじゃなくて、下心です」

「下心って、やあねえ、田中くんたら。桐生さんは私に、ごっこって言ったんだから、そうなのかもしれないけど」

そこで若葉は言葉を切り、エプロンの紐を胸の前でぎゅっと握り締めた。彼女の爪の先が少し白くなる。胸元から、柔らかな髪が一房こぼれて、皮脂の甘い匂いだけを俺の鼻先に届けた。

「でも、手を繋がれて、街を歩くだけで、こんなに安心するって、私、ずっと知らなかったの。旦那と居るときも、そうだったはずなのに」

若葉は困ったように微笑んだ。持っていたトレーを胸に当てる仕草が、少女というより、迷子の小さな鳥のように見えた。

それから数日のうちに、俺はますます悪い情報ばかりを拾うようになった。シフトが重なるたび、若葉の格好は少しずつ変わっていく。ブラウスの生地は薄く柔らかいものに替わり、胸元のボタンは開いたまま、鎖骨の窪みがいつも光っていた。接客の際に屈むと、襟ぐりから淡い桜色のキャミソールが覗く。その度に俺は視線を逃がそうとして、かえって、彼女の鎖骨の下に伸びる影へ目を吸い寄せられた。仲の良い女子大生が、いつものように若葉へ「その服、新しいやつ?」と冷やかすと、若葉は「えへへ、ちょっとね」と頬を赤らめる。店の男連中はきっと誰も、それが桐生の好みに合わせた変化だとは気づいていない。いや、気づいているのは俺だけで、そのことが陰鬱な昂りとなって腹の底に溜まっていく。

雨が降るたび、彼女は湿気を言い訳に髪を束ねたが、一週間もするとそれさえしなくなった。シャツ越しに浮き出る背中の線、曲げた肘の丸み、首筋の産毛。俺は恋慕していた若葉の、別の部分を観察している。心配している。腹が立っている。そして、そのどれにも収まらない悍ましい好奇心が、俺の脳を風呂のように曇らせていた。

七月の中頃、閉店間際のバックヤードで、桐生と若葉の声がした。物流業者の伝票を手に戻った俺は、半開きになった休憩室のドアの前で足を止める。白い蛍光灯の下、若葉が背中を向けて立っていて、その腰の後ろに桐生が片手を置いていた。手を繋いでいた。桐生の指が、若葉の短い指の間をゆっくりと割り開くように絡んでいる。

「ね、こうしてみると、若葉ちゃんの手ってすごく小さいな。旦那と手、繋ぐことある?」

「えっとね……最近は、あんまり。陽菜抱っこしてるから、手が空かなくて」

「じゃあ、恋人ごっこしてるときは、どっちが先に手を出す?」

若葉は答えない。後ろから見ても、耳の先が真っ赤に染まっているのが分かった。蛍光灯が青白いから、その赤さがいっそう生々しい。

「なあ、これもごっこの続きだからさ。今、俺がここで、お前にキスしたら、どうする?」

「……どうするって、桐生さん、私、帰らなきゃ。陽菜が待ってるし」

「陽菜ちゃんは、ばあばとお風呂入ってるって言ってたろ。なあ、ここでキスしても、別に誰も来ないよ。扉の向こうには、もしかしたら田中が聞いてるかもな」

若葉の肩が、小さく跳ねる。桐生の指が、繋いだ手を離れて、白いエプロンの胸元、その上からゆっくりと何かの形を確かめるように動いていく。若葉は片手を後ろに突っ張って、壁に触れたまま、声を殺している。俺は伝票の束を指先で折り曲げながら、半開きのドアの隙間から、彼女の曲げた膝と、桐生のシャツの青い色を、顕微鏡の中を覗くように見つめていた。

やがて、桐生が振り返った。音を立てずに俺の存在へ狙いを定めたように、黒い目がすっと細められる。見つかった。だが桐生は、唇を横へ引いて笑ったまま、若葉の顎へ人差し指を添えた。若葉が「や、っ」と短く声を揺らす。その声は、一ヶ月前に休憩室で聞いた「くすぐったい」とは明らかに違う、圧縮された空気を吐き出す音だった。俺は足を踏み出せない。いや、踏み出したら、自分が一体どちらの側になるのか、それを決めてしまう気がしたからだ。

けれど視線は、どうしても剥がれない。若葉の白い喉が、長く伸びる。肩口から滑ったエプロンの紐が、重力に従って揺れる。桐生の唇が、彼女の耳の下、ちょうど頚から肩へ変わるくぼみに触れた瞬間、若葉の睫毛が何度も瞬く。抵抗でも、恐怖でもない、自分の内側で生まれてしまった何かを確かめるための瞬き。その光景に、俺の心臓は下品な熱を送り出していた。

桐生は、その日、俺に短い動画を送ってきた。居酒屋の個室らしき座敷で、若葉がカウンター越しに座っている。いや、座敷の座椅子にもたれて、片手でビールジョッキを持っている。声はしていなかった。撮影日時は記録されていないが、卓上に並ぶ料理から、先週末だということが分かる。若葉の服装は、店のユニフォームではない。白地に水色の小花柄のワンピースで、背中が大きく開いた、とても地味な彼女らしくないデザインだった。桐生から「それ、若葉ちゃんのデート用に買ってやったやつ」と吹き込まれた音声が、かつてないほど俺を苛立たせ、同時に何度も再生させた。映像の中の若葉は、桐生の肩に頭を預けて、えへえへと笑っている。七分袖から伸びた白い腕が、桐生の黒い半袖を掴んでいる。俺は、その小さな手のひらに満ちた親密さを、指先で液晶越しに撫でまわした。

それから程なくして、喫茶店のシフト前に、桐生が俺の隣へ立ち、ある廊下で「今度、面白いもの見せてやるよ」と言った。桐生はスマートフォンの画面を、僅かにこちらへ傾けて、暗い画面の黒を反射させただけだった。ただそれだけだったのに、俺の脈は耳の奥でどろどろと鳴り、七月の夕暮れの蒸気が、まとわりつくように喉を塞いだ。

「面白いものって、何スか」

「見れば分かる。お前が、普段あれだけ気にしてる子の、知らなかった顔だ」

桐生は俺の肩を軽く叩き、店の明るい場所へ戻っていく。俺はしばらく廊下の鏡の前に立ったまま、自分がどんな顔をしているのか確かめられなかった。外では、夕立がなくなった後の湿った熱が、夜になっても降り積もり続けていた。若葉がどこかで、夫とは違う男の指に手を絡めている。その手の温かさが、カフェの氷の音や、雨上がりのアスファルトの匂いと一緒になって、俺の肺をじくじくと水膨れにしていた。桐生の「面白いもの」という言葉を反芻するうちに、俺の心には、怒りと嫉妬だけではなく、拒めない期待の塊が黒い泥のように溜まっていくのが分かった。俺は、若葉の、あの鵞鳥のように長い喉と、薄い鎖骨の窪みを思い描く。そこで、他人の唇が這う場面を想像して、下腹部に熱い針を数本、埋め込まれたような夜を、静かにやり過ごした。

第3章 更衣室の鍵と最初の一線

第3章のシーン

第3章 更衣室の鍵と最初の一線

八月の終わりは、夜になっても空気が肌へ張り付くように生温かった。閉店後の喫茶店「花水木」はエアコンを止めてあり、窓という窓を閉め切った店内に、昼間に吸い込んだ熱がゆっくりと澱んでいた。俺は最後の清掃を終えて、伝票入れの金庫前でしゃがみ込むと、暑さのせいだけではない、浅くて重い息を吐いた。今日、若葉の様子が明らかにおかしかったからだ。カウンターでコップを拭く手が二度止まり、レジ打ちを間違え、厨房の前でぼんやり竜田揚げの添え物を見つめていた。桐生が店に来て、彼女の腰のあたりを軽く叩いてから、その状態が始まったように思えた。

バックヤードの時計は二十一時四十分を回っていた。俺は蛍光灯の下、まだ居残っている二人分の気配を感じながら、金庫の薄い鉄の扉を閉めた。スタッフルーム兼更衣室のある角を曲がったとき、廊下の突き当たりのドアが僅かに開いていて、青白い光が一筋だけ、リノリウムの床へ斜めに落ちていた。あの日、休憩室の前で立ち竦んだ六月の記憶が、耳の奥で微かに水音を立てた。

近づくな。そう思いながらも、スニーカーの先は音もなく廊下を進んでいた。半開きのドアの隙間から、二人の声が息のように漏れてくる。

「……鍵、かけた方がいい?」

桐生の声だった。低いのに軽く、喉の奥で笑っているのがわかる。

「だめだって、私、帰らなきゃ。陽菜が、そろそろ、夜中に起きちゃうし……」

若葉の声は上ずっていて、語尾が空気に溶けて消えていた。ドアの蝶番のあたりから、衣擦れのような、布が畳まれるような微かな物音が途切れ途切れに続く。

「陽菜ちゃんは、今夜もばあばが泊り込みだろ。若葉、自分で話してたじゃん」

「そう、だけど……んっ、あん、待って……」

俺は壁際に背中を預け、天井を見上げた。換気扇の唸りが、遠くの方でずっと鳴っていた。ドアの向こうでは、逃げようとするスニーカーの底が、床を擦って小さく鳴くような音がしている。

「やだ、本当に……こんな場所、だめなの」

「こんな場所だからいいんだろ。お前、さっきから膝が内側向いてる」

桐生の言葉の後、若葉が短く「あっ」と息を呑む。続けて、何かが倒れる音。折り畳み式のスツールか、それともロッカーの薄い鉄板か。柔らかな衣類の擦れる音が、廊下の湿った空気の層を押し広げるようにして俺の耳へ届いた。

「鍵、後で返せばいい。誰も来ないよ。田中はとっくに帰った頃だし」

俺の名前が出て、心臓が喉元へ上がってきた。ドアの隙間から、若葉の下着の色が一瞬、白い布として視界を掠めた。彼女の私服が、更衣室の青白い光の中、畳まれていない状態で床に落ちている。ブラウスが、淡い水色のカミソールだけが、長椅子の端に引っかかっていた。

「つめた、ロッカー、冷たい……」

「ここなら背中、ちょうどいいだろ。もっと足開いて。お前、今日、ずっとそうされたかったんだろ」

「違う、そんなんじゃ、あっ、や、そこは……だめなの、本当にだめ」

若葉の拒絶の声は、どれも水に浮かぶ紙のように頼りなかった。彼女が「だめ」と言うたびに、その声の芯が震えて、語尾が甘い吐息へ滲んでいった。俺はドアの向こうの光景を、想像だけでなく音で組み立てていく。桐生の大きく筋張った手が、若葉の華奢な肩を掴み、冷たいロッカーへ押し付けている。小柄な背中が鉄の面に触れたとき、若葉の薄い胸がびくりと反り返る。首元に残った汗が、押し付けられた肌の温度を倍加させる。

「だめ、だめなの……っ」

その繰り返しに、俺は耳を塞ぐことも、ドアを閉めることもできなかった。耳の奥で、彼女の声が反響する。抵抗の言葉を口にしながら、身体のあちこちから微かな粘液の音を拾ってしまう。ぐじゅ、と、湿った何かが開いていく音。それは、俺が一度も知らなかった、若葉の身体の奥の音だった。

「ほら、指先だけ、触れただけだろ。もうこんな、糸引いてるじゃん」

桐生が笑う声がする。若葉の吐息が不規則に上ずり、衣類の上からか、直接か、触れられている場所を言い当てるように「あぁ……んっ」と細く鳴く。

「やだ、見ないで……それ、見ちゃ……」

「見せてるのはお前のほうだよ。ここ、ヒクついてるの、自分でもわかってるだろ。なあ、若葉、旦那にはこういう顔、させてもらったことあるのか」

「……ない、旦那は、そんな、私に、こんな……」

「そうだよな。一年以上ご無沙汰だもんな。こんな若い体持て余してたんだろ。お前のここ、すごい匂いしてる。汗だけじゃないだろ、これ」

俺は額の汗を手の甲で拭った。冷房が切れた店内の廊下に、潮の混じった甘酸っぱい匂いが薄く漂ってくるような気がした。それが若葉のものだと頭で認めた瞬間、俺の下腹は嫌というほど硬くなっていた。自分が壁にもたれながら、どうしてここに居るのか、理由をつけることなんてできなかった。

「んっ、は、あぁ……桐生さん、指、そんな、動かし……」

「動かさないとわかんないだろ。ここか。ここの、少しざらついたところ。充血してぷっくりしてきてる」

「あっ、あ、だめ、そこ、こちょこちょ、されるの、変になっ……」

若葉の声が、質感を失った叫びに近いものへ変わっていく。苦しげなのに、その奥から粘っこい甘さが剥き出しになっていくようだった。彼女の体重がロッカーへもたれかかり、鉄の扉がかたん、かたん、と断続的に鳴った。指先が、彼女の「そこ」を弄る音を、俺はただ制服のポケットの中で拳を作って聞いていた。若葉が強く息を吸って、足の裏を床へ擦る。マシュマロみたいに柔らかなはずの太腿が、力を入れたり抜いたりを繰り返して、そのたびに彼女の立てる音が粘液の糸を引く。

「……は、あか、ん、桐生さん、だめ、何か、来てる……おかしくなる、から……」

「おかしくなればいいじゃん。俺の指、もう根元まで入ってるの、見える? 若葉のここ、物欲しそうに吸い付いてきてる。旦那が忘れてるここ、俺が思い出させてやるよ」

指は、濡れた内壁をゆっくり押し拡げるように曲げられたのだろう。若葉の喉が、倒錯した悲鳴を飲み込む。「いやぁ」に似た声が、鼻腔を抜けて甘く湿った。水音が、ぐじゅ、ずちゅ、とくぐもって、ドアの向こうは汗と唾液と愛液とが混ざったような、生々しい空気に満ちていた。

「ちょっと、お前のこれ、脱がすぞ。この下着、もう要らないだろ。お前の汁で、縦に線ついてる」

「そんな、言わないで……あ、本当、だめ、足、閉じらんない……」

布が引き下ろされる音。小さな足が順番に持ち上げられ、脱がれた下着が床へ落ちたのだろう、湿った布の落ちる音がやけに大きく耳へ届いた。

「んで、ここ、こうやって広げるんだよ。お前の小さな肉の襞、全部見せて。桜の花びらみたいに薄いんだな。ここ、もうぱっくり開いて、中がひくひく光って見える。今から俺のが入る場所、ちゃんと目で見てろ」

「いや、いやなの、こんな、旦那以外の人に……実物、見られるなんて……でも、身体が、言うこと聞かないの……」

若葉の声が涙で震え始める。しかし、その涙は苦痛ではなく、自分自身への戸惑いから溢れているように聞こえた。ドアの隙間から、彼女の爪先が、床に落ちた黒いスニーカーの上へ力なく乗っているのが見えた。桐生が彼女の膝を持ち上げた形になり、片足が浮く。ロッカーに背を打ち、片足を支えられたまま、若葉の柔い腰がぐっと前に開かれる。

「若葉、息、吐いて。俺のが欲しくなったら、ここ、もっと開けるよ。誰にも教えてもらわなかった場所のおくまで、ゆっくり擦ってやる」

「あっ、待って、先っぽ、当たってる……熱い、よぉ……あ、は、あーっ」

声が、一瞬、すとんと落ちるほど深い場所から抜けた。俺は壁に頭を押しつけながら、目を閉じた。閉じた視界の裏に、若葉の小さな浅黄色の身体が浮かぶ。開かされた太腿の白さ、汗で光る下腹、割り開かれた陰部が受け入れる、桐生の怒張した先端。視界の裏に焼き付いたものは、実際に見たわけではない。それなのに、俺の知る若葉の輪郭をなぞって、足りない部分を音が補っていく。ぬち、にちゃ、と肉の窄まりが先端を食み、粘膜が張り付いたり離れたりする音。彼女の身体は、桐生の太いものを根元まで飲み込むときに、喉の奥から潰れたような長い吐息を絞り出した。

「あ……は、ぁ、すご、何これ……奥、届いてる……桐生さん、動かないで、まだ、慣れて、ないから……」

「慣れてないって顔じゃないよ。お前、目が蕩けてる。動くぞ。ちゃんと、ここで、俺を感じて」

桐生の腰が、ゆっくりと圧をかける。金属のロッカーが、小刻みに冷たい断末魔を上げ始めた。かたん、かたん、と、逃げ場のない更衣室の隅で、二つの身体が重なって揺れる。若葉の唇から、ぴちゃぴちゃと、結合部から迸る水の音を恥じらうような低い鳴き声が漏れる。

「は、あっ、あ、やだ、音、だめ、聞こえちゃう、から……んぅ、あぁっ」

「聞こえてもいいだろ。誰かが聞いてるかもな。田中がさ、まだ残ってて、この音だけで射精してるかもな」

桐生が意地悪く囁く。俺の耳は熱を持って、廊下の沈黙を破る行為の音だけを拾っていた。若葉の呼吸が、射精を前にした男の名前を呼ぶ。

「や、桐生さん、中、出しちゃ、だめなの、今日、あぶない日じゃないけど……それでも」

「妊娠したら、どっちの子かわかんないな。旦那は、お前が淫乱な妻だなんて、夢にも思ってないだろ。ほら、お前の中、奥の襞がうねってきてる。もう、いく時は正直に声出せよ」

「あっ、や、声、出したく、な……んっ、ふあ、あぁっ……!」

若葉が、喉を壊した鳥のように啼いた。足の指が丸まり、片足を浮かせた姿勢のまま、彼女の身体がびくびくと震える。俺はポケットの中で自分の指を握りしめ過ぎて、手のひらに爪の痕を作った。太腿の内側に張り付いた汗まみれの肉が、白い光の中で何度も収縮する音。桐生が短く息を詰め、腰を深く押しつけたところで、更衣室の空気が一瞬、弾いたように固まった。

「……出した。お前の中で、どくどくしてるの、わかる?」

「や、出てる……あつい、の、入ってきてる……私、これ、旦那に、なんて言えば……」

「何も言わなくていい。お前のここが、俺を覚えてるから」

暫く、二人の荒い息だけが、淀んだ空気を揺らしていた。俺は自分の唇を噛みながら、崩れ落ちるようにしてその場を離れた。スニーカーの音を消して、客席へ出る。外の夜気が、扉の下の隙間から流れてきて、ようやく生温い風を喉で感じた。店の外へ出ると、月のない空の下、鉄腕アトムの街灯だけが蛾を集めて唸っていた。

それから三日、若葉はバイトへ来ても、俺と目を合わせようとしなかった。というより、誰の目を見て話すでもなく、どこか遠くの空気に向かって微笑むようになっていた。注文を取る声は以前より小さく、カウンター越しに手渡す白い皿の角度がいつもどこか据わっていない。桐生が来ると、彼女は露骨に表情を変えた。目を逸らすくせに、身体は無意識に桐生の隣を探している。腰を低くして、小さな犬が甘えるように彼の肘へ自分の手を触れさせる仕草が、あまりにも痛々しく、その淫らな従属の匂いを俺は奪われるように見ていた。

桐生は、閉店後、店の裏口でタバコを吹かしながら、俺に近づいてきた。蛍光色のライターを軽く回すと、青い煙が湿った空気へ溶けていく。

「お前さ、知ってるだろ。あの日の夜、更衣室の前、いたの」

「……何の話か」

「お前の影が、ドアの下に映ってた。靴の先、見えてたぜ。まあ、いい。特別だ」

桐生は紫色のスマートフォンを、指で器用に俺の眼前へ向けた。画面には、再生ボタンが画面の中央に重なった裸の腿の静止画。すぐに、聞き覚えのある音声と共に、揺れる映像が始まった。縦撮りの画面の中、冷たい青白い照明の下、若葉がロッカーへ背中を預け、片足を桐生の持ち上げた手に支えられている。彼女の白い太腿が映像の中で波立ち、結合部が、ぬち、ぬち、と卑しい咀嚼音を立てて桐生のものを咥え込んでいた。

「あっ、や……そこ、だめ……奥、ずんずん来る……あぁ、私、旦那、ごめん……っ」

映像の中の若葉の声が、湿った穴を通して響くようだった。彼女の唇は酸素を求めて半開きのまま、舌はだらしなく下顎へ落ちて見えていた。時々、片手が自分の口を押さえるが、その指にまで唾液と涎が絡まり、快楽を否定しきれない。桐生が腰を揺するたび、ロッカーがかたん、かたんと鳴って、若葉は小さい動物のように何度も首を仰け反らせた。視線の先には、カメラが彼女の結合部を捉えていた。荒々しく広げられた肉の襞、赤く腫れた内壁が白い液体を纏って、抜き差しの度に外へ引き摺り出される。

俺はスマートフォンを無言で見下ろしていた。喉が焼けるように乾く。会社の更衣室、青白い光。音声がやけに鮮明で、彼女の喘ぎ声が、粘液の音が、耳の奥でぴちゅ、ぐちゅ、と蠢いた。桐生がたまに「ほら、俺ので搔き回されて、お前の奥、ちゃんと掴んでる」と囁くと、若葉は「あぁ……あん、ゆび、いれて、そこ……クリだけ、もっと、めるっ」と泥酔したように返す。俺はそれを、店の裏口、生暖かい風があごを舐める場末の夜の隅で、唾を飲んで見ていた。

「……なんで、俺にこんなもん見せるんスか」

「お前が一番、若葉の良さをわかってるからだよ。それに、俺の女になった記録は、こうやって共有されるべきなんだ。お前、見てる間、喉鳴らしてただろ」

「そんなわけ、ないッス」

「目が、動画の中の若葉を舐めてた。いいんだよ、それで。今夜はずっと見てろ。お前の部屋で、音聞きながら、何するかは勝手だ」

桐生は笑いながら、スマートフォンを胸ポケットへ滑り込ませた。タバコの先端だけが、夜の中で小さく橙色に唸っていた。俺は店の裏口の錆びた手すりを握り締め、爪の先が白くなるまで力を入れた。怒りと吐き気、それから背徳的な愉悦が、胃の底で同じ味になって溶け合っていた。

その晩、自室へ戻った俺は、布団の上に放り出したスマートフォンをしばらく眺めていた。画面は黒く沈んだままで、指先が少し触れるだけで、あの更衣室の光景が溢れ出す。再生ボタンを押せば、自分の中の何かが決定的に汚れる。若葉への気持ちが、憧れではなく、覗き見た夜の残滓を舐め回すような、もっと濁ったものに変わる。わかっていた。それでも、あのドアの隙間から盗み聞いた声を、今度は目で確かめたいと思ってしまう自分がいる。若葉がどうやって桐生を受け入れ、どんな顔で啼き、あの小さな身体のどこを震わせたのか。知りたくないのに、知らないままでいることが、もう耐えられない。いや、違う。俺はとっくに知っている。知っていて、なお、その先の映像を欲しがっている。布団の上で、自分の指先が、まるで他人のものみたいに再生ボタンへ這っていくのを、俺は止めることができなかった。

動画のコピーを再生すると、すぐに、あの青白い更衣室の光が部屋の中へ流れ込んできた。画面の中の若葉は、桐生がその場を仕切るスマートフォンを置き、何度も彼女の腰を叩いて体位を変えていた。撮影者は桐生自身か、固定したカメラか。映像は、正上位で彼女の小さな胸を揉みしだく手つきまで記録していた。白いブラウスの名残のように胸元を覆った下着はとうに剥ぎ取られ、乳房の先端がしっとりと汗を吸って、画面の白い光に濡れていた。彼女の泣き声が、喘ぎに変わり、喘ぎが「もっと、して」という言葉に転がっていく、その過程を理不尽なまでに生々しい音が追いかける。ぐちゅ、ぐちゅ、と、映像の中の若葉の身体が何度も、桐生の怒張を締め付けた。

映像を止めたのは、自分の背中が汗でぐっしょりとシーツに張り付いているのに気づいたからだ。黒い画面に自分の顔が映る。酷い顔をしていた。唇は半開きで、目が血走っていて、額には汗の膜が浮いている。他人の妻が別の男に開かされる一部始終を、こんなにも食い入るように見てしまった自分が、どこにいたのかもわからないくらい卑しかった。なのに、指はまだ画面の上を彷徨っている。もう一度、あの若葉の声を聞きたがっている。自己嫌悪の底で、目だけが爛々とあの映像を求めていて、止めたはずの動画の温度が、手のひらの中にまだべったりと残っていた。俺は、酷い顔のまま、もう一度、再生に触れた。八月の夜は、汗ばんだ部屋の空気ごと、動画の音に沈んでいく。若葉の「だめなの」という同じ響きが、抵抗の意味を失って、快楽に縋る呼び声として、俺の一人部屋に満ちていた。

第4章 調教の日々とハメ撮りの映像

第4章のシーン

第4章: 調教の日々とハメ撮りの映像

九月に入って最初のシフトの日、喫茶店「花水木」のバックヤードで、俺は桐生に呼び止められた。まだ開店前で、客席の椅子はすべてテーブルの上に逆さまに乗せられ、床には薄く水が撒かれたばかりの匂いが残っていた。桐生は給湯室の入り口にもたれかかり、スマートフォンを指先で弄びながら、俺の顔を見るなり笑った。

「田中、お前、この前の動画、何回見た?」

俺はレジの金種票を数える手を止めた。指の先が少し震えているのを悟られないように、紙の束へ視線を落とす。

「……別に、数えてないッスよ」

「嘘つけ。お前、昨日、目の下にクマ作ってバイト来てたろ。夜更かししたんだろ。若葉の声、イヤホンで聴きながら抜いたんだろ」

桐生は俺が何も言えないでいると、喉の奥で小さく笑ってから、スマホの画面をこちらへ差し出した。そこには、今朝方撮られたばかりらしい動画のサムネイルが三つ、縦に並んでいた。一番上の静止画は、見たことのあるパステルブルーの壁と、黒い革張りのソファ。桐生の自宅マンションのリビングだろう。そして、白い布に覆われた小さな臀部の膨らみが、ソファの背もたれの上に突き出されていた。白い布は、喫茶店のユニフォームのスカートだった。

「今度は、もっと面白いぜ。制服のままやらせた。あの、お前がいつもカウンター越しに見てた格好のままでな。今度の日曜、ウチ来るだろ。大きい画面で見せてやるから、バイト代、しっかり稼いでおけ」

そう言って桐生は、俺の肩を軽く小突き、まだ誰も着ていないエプロンの下から、折り畳まれた一枚の紙を俺の胸元へ押し当てた。プリクラだった。光沢のある厚紙の中で、桐生が若葉の肩を抱き、若葉は視線を落として恥ずかしそうに微笑んでいる。肩が触れ合い、頬はほんの数センチの距離。まるで恋人同士のような制約のない密着感が、蛍光灯の下でいやに生々しく光っていた。

俺はそのプリクラを、自分のエプロンのポケットに突っ込んだ。心臓が嫌な音を立てた。桐生は、俺に若葉を見張らせると同時に、彼女を支配する証拠を常に突きつけてくる。そのことが、俺をどんどん彼のゲームの中へ巻き込んでいく。

日曜の午後、桐生のマンションを訪れると、部屋にはすでに若葉の気配が残っていた。玄関に、寄せて揃えられた小さなスニーカー。無造作に置かれたネイビーのトートバッグ。飲みかけの紙パックのオレンジジュースに、子供用の小さなキャラクターものの靴下が片方だけ、ソファの下から顔を出していた。冷房の効いた部屋の中に、微かな乳酪臭が漂っている。若葉の母乳の匂いか、それとも、陽菜が飲んでいたミルクの残り香か。生活の匂いが、他人の男の部屋にまで染み込んでいることに、俺は奇妙な嫉妬を覚えた。

「見ろよ。ついさっきまで居たんだぜ。今日は陽菜ちゃんを旦那の実家に預けて、四時間だけ恋人になりに来た。お前が来る三十分前まで、あいつ、ここで俺の好きなようにされてた」

桐生は五十型のテレビにノートパソコンを接続すると、いくつもの動画ファイルが並ぶフォルダを開いた。日付と時間、それから若葉の状態を表すような短いタイトルが、無数につけられている。ファイル数はすでに二十を超えていた。桐生はその中の一つ、九月二日、十四時七分と記録された動画を再生した。

画面の中で、若葉が映っていた。彼女は、喫茶店の制服である白いブラウスの上に、深い緑色のエプロンを着けたまま、ベッドへ仰向けに転がされている。足首には、太ももまでを覆うストッキングが片方だけ残されていて、もう片方はベッドの端から床へ向かって蛇のように垂れていた。ブラウスのボタンはすべて外され、前合わせの隙間から、淡いレースの下着に包まれた乳房のふくらみがこぼれている。桐生の手が、カメラを持っていない方の手で、彼女の乳の下をすくうように揉む。ぷにっ、と、脂肪の厚みが指の間に沈む音が録音されている。

「ほら、若葉。お前の乳首、こんなに濃いピンクしてたんだな。娘に吸われて、色が変わったのか?」

「やぁ……そんな風に、見ないで……あぁンッ」

若葉の声は、あの更衣室の夜よりもずっと甘く、語尾が溶けていた。カメラが彼女の顔へ寄ると、目は潤んで視線が定まらず、唇は半開きのまま、自分の唾液で薄く光っていた。鎖骨まで開いたブラウスの襟元からは、汗の粒が肌を伝い、深い谷間へ吸い込まれていく。

「見ないでって言われても、お前、自分の手で乳首摘んでるじゃん。こっちの手は俺に掴まってるのに、いつの間に下着ずり下げたんだよ」

映像が引くと、確かに若葉は自分の右手で、露出した右の乳首を摘み上げていた。白い指先が、というより、彼女自身の意思が、そこを捏ねている。桐生の左手は、若葉の太腿の内側へ入り込み、指先だけを使って花唇をくちゅくちゅと掻き混ぜていた。制服のスカートは腰の上までたくし上げられ、下着は右足の膝に引っかかって、ひどく浅ましい姿を晒している。

「あっ、あ、や、自分で触るの、ほうが、まだ、落ち着くの……お願い、だから……ねえ、入れて? 私、もう、はやく、欲しくて……ぁ、あっ、おまんこ、熱くなって、ぱんぱんしてほしいの……っ」

若葉の口から、蕩けるような懇願が溢れた。あの、カウンター越しに常連客へ「かしこまりました」と微笑みかけていた娘が、夫と子供を持つ若い母親が、開かれた肉の割れ目に男の指を咥え込みながら、自らの卑猥な言葉で更に火を点けようとしている。

映像は一旦止まり、桐生がファイルを切り替えた。次に映ったのは、仰向けではなく、四つん這いの若葉だった。制服のブラウスは肩から引き下ろされ、腕を抜いて、腰の部分に団子のように巻きついている。スカートは脱がされ、深い緑のエプロンだけが首から下がって、裸の乳房と背中の谷間を申し訳程度に隠していた。

「お前のアナル、ここ。まだ使ったことないんだろ」

桐生の声が、画面の外から被さる。指先が彼女の後孔へ這い寄る。若葉の身体が、明らかに跳ねた。

「やだ、桐生さん、そこは、本当に、だめなの……お願い、今日は、おまんこだけ……おまんこ、いっぱい擦って欲しいの。アナルは……」

「一回目は全部痛いって言うよ。でも、すぐ気持ちよくなる。それより、お前、指一本も入れたことないのに、誰かに触って欲しくて後ろを突き出してる。肛門ひくひくさせて、先っぽにローションまで垂らされて、お前の身体は正直だな」

桐生の言う通り、画面の中の若葉は、膝を肩幅に開き、両手で尻の肉を左右に割り開いていた。エプロンの紐が背中の真ん中で揺れるたび、後孔の周りに塗られた透明な潤みが、青白い照明を受けて銀色に光る。褐色がかった窄まりが、ひく、ひく、と虫の口のように収縮している。

俺はソファの背もたれに深く沈み込み、両手を膝の上で組んだ。テレビから若葉の荒い息遣いが、部屋の空気を細かく震わせた。聞きたくない。けれど、耳は音を求めてしまう。画面上の後孔に、桐生の太い指先が押し込まれた瞬間、若葉が絹を裂くような細い声を上げた。

「いや……っ、入ってる、狭い、苦しい……桐生さん、動かさないで、お尻、ちぎれちゃう……あ、あぁ、待って、中の指で、膨らんでる……っ」

「きついな。中、熱い。お前のここ、根元まで咥えようとしてる。なあ、若葉、今、どんな気分だ?」

「……わかんない。恥ずかしい。でも、桐生さんの指、私の恥ずかしいところ、見つけて……掻き回すたびに、お腹の奥まで、ぞくぞくするの。それで、前の両方の襞から、愛液が、膝まで垂れてるの……見えてる。私、とても、淫乱な雌なの……あぅ、あっ……桐生さんにだけは、知られちゃった……旦那は、一度も触ってくれなかったとこなのに……」

その言葉を合図にしたように、映像の中の桐生が、若葉の腰へ自分の怒張を近づけた。指を抜いた後孔の入り口に、せっぱ詰まった鈴口が押し当てられる。狭い窄まりは、熱くとうに湿っていたが、決して十分ではないはずだった。それでも若葉は、背中を弓なりに反らせ、自らの手で尻を開いたまま、ほとんど無防備にそれを求めた。

「お前が自分でお願いしたんだろ。ほら、言ってみろよ。俺のどこを、どこに入れて欲しいか、ちゃんと自分の声で」

「……桐生さんの、おちんちん……私のお尻の……アナルの中に、入れて、ください……」

くぐもった声で若葉が懇願する。画面の中の桐生は、返事の代わりに腰を突き出した。ぬちゅ、と、粘液を巻き込みながら、肉厚の先端が窄まりを押し破る。若葉の悲鳴が、というよりも、歓喜に裏切られた泣き声が、マンションのリビングへ響き渡った。

「あ、ああっ、入ってる……お尻、裂かれながら、おまんこの前の方まで、熱くなって……や、だめ、今、動い、たら、頭の中、ぐちゃぐちゃに……っ」

桐生は容赦なく、後ろから何度も子犬の腰を打ちつけた。ぱちゅ、ぱちゅ、と、アナルの窄まりが肉茎をせき止めながらも、ぬかるみの中へ深く飲み込んでいく音が重なる。彼女の臀部の白い肉が波打ち、背中から肩へ向かって汗がつう、と流れた。エプロンの緑色が、その汗の線でカメラの光を受け、汚らしくも神々しい姿に見えた。

「あーっ、すご、すごい……え、何これ、私、アナルで、イッ……ぁ、もう、むり、足に力、入らない……擦れて、同時に、おまんこも、くちゅくちゅ鳴ってる……聞こえちゃ、っ、あぁあっ、おく、おく、じゅんと、出てる、の……お尻、ほじられて、奥の方、痺れて、ゆるゆるになって……は、ぁ、はぁ、桐生さん、もっと、もっと……私のアナル、桐生さんの形に、して、ください……っ」

呂律の回らない言葉が、槍のような呼吸と一緒に溢れてくる。画面の下では、若葉の垂れた愛液が、桐生の陰嚢と彼女の太腿の間で銀色の蜘蛛の糸を引いていた。俺は話の途中で、自分の唾を飲み込み損ねて、喉を激しく震わせた。異様なほどのリアリティが、俺の鼻腔の奥まで届いてくるような気がする。肛門がめくれ上がり、肉筒を締め付ける音が、五十型のスピーカーから暴力のように流れ込んだ。

しばらくして、桐生がまた再生を止めた。無音が下りると、壁際に置かれた若葉の小さなスニーカーの存在が、急に生々しくなった。

「まだまだあるぞ。次は、旦那に声を聞かせながらだ。こっちのな。夜の九時。あの女、自分からスマホ持って、ここで四つん這いのまま、旦那に電話かけた」

桐生が、いくつかのファイルを飛ばし、裏庭の街灯が写る窓の傍らで、若葉が通話している映像を開いた。古い方のスマホを耳に当て、もう片方は絨毯の上に突いて、自分の背を反らせている。腰が高く上がり、アナルは先ほどの行為で赤く腫れて、周りが濡れ光っていた。桐生は彼女の真後ろに膝立ちになって、そろそろと浅く抜き差ししている。

「もしもし、旦那? うん、陽菜はね、寝たよ。ばあばの家で、夕飯たくさん食べたみたい。うんちも出て、ご機嫌だったって……あ、うん、そうなの。今日ね、なんだか、ちょっと、疲れちゃって……」

笑っていた若葉の声が、途中でかすかに裏返った。電話越しの健一の声は、ごく小さく部屋に響くだけだったが、その呑気な調子が背徳を際立たせる。若葉の震える息が、受話器越しに聞こえないよう、彼女は必死に顎を引いていた。

「うん、大丈夫。明日、帰るね。……私も、愛してるよ。おやすみ」

通話が切れた瞬間、若葉はスマホを床へ落とし、顔を絨毯へ埋めて泣き声を殺した。画面の外から、桐生の声が被さる。

「お前の奥さん、後ろの穴を塞がれたまま、旦那に愛してるとか言えるんだな。どこが愛してるだよ」

「だって、愛してるの……心は、ちゃんと旦那の……だって……」

「心は旦那。身体は俺。なあ、若葉、そのくせ、今、お前のアナル、俺のを離さないように締め付けてる。口だけ切れ味いいじゃんか。ほら」

桐生が腰を強く突き入れると、若葉の白い尻に赤い手形が浮かぶほど、肉と肉とが激しく打ち合わされた。彼女は餌をねだる牝猫のように、背をしなわせ、自分の人差し指で露になった陰核を押し潰した。結合部からは、一本の赤い舌が垂れた。それは勃起した小さな肉芽を必死に転がし、腰を前後させて、淫蜜まみれになっていく。映像の中の若葉は、誰が見ても淫らに熟れていた。旦那の前で見せる顔など、もうこの部屋には欠片も残っていない。

「はぁ……んんっ、奥、裂ける……だめ、電話の前に、いっぱい液、塗ったのに……もう、ばかになってる……おまんこ、あけっぱなし……気持ちよくて、頭、おかしいよ……桐生さん、好き……好きなの……お尻から、きもちよすぎて、旦那、忘れそうになる……そんなの私、ちがうのに……なのにお尻、ぎゅってしてるの……ああっ、奥に、とどく、もっと、私、もっと……」

桐生が荒い息とともに腰を打ち続ける。白い泡が後孔の周りに溜まり、抜き差しのたびに、ぬぷ、ぬぷ、と、濁った水音が高くなっていく。若葉の悲鳴とも、喘鳴ともつかない声が、夜の部屋に溶けた。赤く泣き腫らした目。涎で光る唇。尻肉を自分の指で押し分け、男の肉茎を迎え入れながら、彼女は確かに笑っていた。恍惚とした媚態が、テレビの光を受けて静かに燃えていた。

それから、桐生が再生した映像は、いっそうあからさまな調教だった。映像の中の若葉は、居酒屋の個室に全裸で立たされ、ビールジョッキを抱えるようにして尿を注いでいる。注ぎ終わると、桐生に言われるまま、彼女はジョッキへ唇を寄せた。白い膝を折り、自分の尿の満ちた黄金色の液体を、犬のようにちろちろと舐めた。

「飲んで。全部」

「……はい。桐生さんが、くれるなら……んく、んっ……苦い……でも、桐生さんの望む私、なら……ごく、ごくん……」

「上手に飲めるようになったな。次は、俺のペニスから直で飲ませてやる」

また、別の映像。ソファに仰向けになった桐生の上へ、若葉が馬乗りになり、白いブラウスを肩から落としながら、半分ほど勃ったペニスへ手を絡めている。手コキは緩やかで、鈴口から滲む我慢汁を親指の腹で広げ、亀頭の裏側をゆっくり擦り上げる。彼女の手つきは日に日に手慣れて、桐生の反応を窺いながら、何度も甘い声をかけていた。

「桐生さん、気持ちいい? 先っぽ、ぬるぬるしてきたよ。裏の筋を、ん、こうやって、こちょこちょすると、すぐ大きくなるね。それ、舐めていい? 私、もっと、桐生さんに、おいしいって、思われたい……」

若葉は、この四ヶ月前まで夫以外の男とキスすら知らなかった娘だった。今では、男の性器を手の中でこね回し、その味を確かめるように、白い亀頭を唇で食む。ちゅる、じゅる、と唾液と先走りの混じる卑猥な音を立てて、彼女はやわらかな頬を窄めた。その合間に上目遣いで、まるで俺の方を睨むように見た。いや、違う。カメラの向こうの、主人である桐生の目だけを見つめているのだ。彼女の目は、もう俺が知っていた無垢な光を失い、淫靡に甘え、男へ従属する牝の光だけを宿していた。それでも、辛うじて残る幼さが、唇の端から零れた唾液を伝わせていて、それがかえって淫らだった。

桐生は、そうしたファイルを次々と見せたあと、テレビを消した。黒い画面に、自分と桐生の、ゆがんだ二つの影が映る。

「飽きたら、お前にやらしてやってもいいよ。若葉も、もう身体さえ合えば誰でも気持ちよくなれる体になった。あの女、俺がいない間、自分で指突っ込んで練習までしてるんだぜ」

「……先輩、アンタ、ほんとに何がしたいんスか」

「女を、一番いやらしい姿まで堕として、それが最高に美しい瞬間を記録する。お前はその観客。若葉の清楚な仮面が剥がれる瞬間を、目撃する役。役得だろ」

俺は何も答えられなかった。怒りよりも先に、舌の裏が苦い唾液で満ちていた。苦いのは、桐生への嫌悪だけではなかった。再生されたいくつもの映像の断片が、俺の腹の奥で熱い泥になり、耳の奥で若葉の嬌声がまだ木霊していた。もっと見たい、と思ってしまった。あの、夫に電話をする指先や、アナルへ指を突っ込まれながら泣きじゃくる声を、自分の情欲の芯に変えてしまった時間があった。その事実が、何より苦い味として舌の下に沈んでいた。

十月の半ば、夜のバイトを終えた帰り道、電車の座席で、俺は動画の続きを想像して、何度も唇を噛んだ。桐生のマンションを訪れてから一ヶ月近く経つのに、あの日見た映像は毎晩、瞼の裏に白濁した卵のように産み落とされる。メールボックスには、桐生から無断で、若葉の自宅での一枚のプリクラも送られてきていた。抱きしめられ、背中に男の手を回され、うっとりと目を閉じた若葉。あの細い鎖骨の下に、桐生の手が食い込んでいる。

俺は電車の窓に浮かぶ、くたびれた若い男の顔を眺めた。そいつは俺のはずなのに、眼差しが濁っていて、口元が半開きで、どうしようもなく背徳に腹を空かせていた。自宅へ帰るや否や、俺は布団の中でスマホを開いた。お気に入りに保存した動画を、また最初から再生する。九月二日のファイル。喫茶店の制服を着た若葉が、桐生に言われるまま、深い緑のエプロン越しに自分の胸を揉み、ソファへ這い上がる。彼女の喘ぎ声が、私物の漫画と洗濯物の散らかった一人部屋に満ちる。ずっぷ、ぬち、ちゅる、という音が、イヤホンを通り越して、耳の骨をじかに揺らす。

俺は自分の愚かさを呪いながら、固くなった己の薄い腹の下を、手のひらで擦り上げた。擦りながら、頭の中は、若葉と健一の無垢な家庭生活でいっぱいだった。あの人が陽菜に離乳食を食べさせる映像を想像しようとした。いや、違う。想像しているのは、その同じ手が、桐生の肉茎を包み、後孔を自分で開いて男を誘う映像だった。映像の中の若葉が、こちらの耳元で「愛してるの」と掠れた声で呟く。それは旦那に向けた言葉だった。それが、俺の背筋を駆け抜けて、下腹部をひときわ強く脈立たせた。

十月も終わりに近づいた頃、店の裏口で、桐生が煙草を揉み消しながら、淋しげな光を帯びた声で言った。

「そろそろ、この辺が潮時かな。若葉ちゃんも、最近、入れ込み過ぎてて、家の事おろそかになってきてるし。女って、好きになった男の前だと馬鹿になるよな」

「……ホントに、飽きたらやらせてくれるんスか」

「二秒で食いつくなよ。お前、意外とゲスいとこあるのな」

桐生は笑い、俺は笑い返せなかった。返す言葉もなかった。胸の奥で、何かが腐敗した果実のように潰れた音を立てた。それは、かつて俺が持っていたはずの、若葉に対する純粋な恋慕の行程を終えた音に似ていた。気づけば、俺はその夜も、また動画の中の若葉に飢えていた。夫への愛を口にしながら男の上で腰を振る彼女の姿を、何度も何度も巻き戻しては、自分の汚れた願望を注ぎ込むように擦り続けた。外はすっかり秋の虫の声が消えていて、耳の奥には、あの偽りの電話の声と、くぐもった「愛してるよ」だけが、夜の化石のように沈んで残っていた。

第5章 露出と海水浴、崩れゆく清楚

第5章のシーン

第5章: 露出と海水浴、崩れゆく清楚

十一月に入ってしばらく経ったある夜、俺は自室のベッドに仰向けになったまま、天井の染みを数えていた。桐生から届いた一枚の写真が、スマートフォンの画面をまだ淡く照らしている。写真の中の若葉は、鎖骨まで開いた白いブラウスを着て、駅前のカフェらしき場所でコーヒーカップを両手で包んでいた。指の節が白く浮き、唇はうっすらと笑っている。胸元から覗く鎖骨の窪みに、店の照明が小さく溜まっていて、その下へ伸びる影がやけに生々しかった。写真には短いメッセージが添えてあった。「若葉、こういう服しか着なくなった。お前が言ったんじゃねーよ。俺の好み。今度、見せたいものがあるから、週末空けとけ」

俺は画面を伏せて、目を閉じた。瞼の裏に、あの白い喉が浮かぶ。桐生の指が、その喉をなぞる。若葉が恥ずかしそうに首を竦める。頭の奥で、あの八月の夜、更衣室のドア越しに聞いた水音が、湿った残響のように甦った。俺はシーツを握り締め、それ以上、何も考えないようにして眠りに落ちた。

週末、桐生のマンションを訪ねると、部屋の中は前回よりもずっと荒れていた。テレビの前には空のペットボトルが三本、足の踏み場を迷うほどに散らばり、黒い革張りのソファの上には、女物の薄いカーディガンが脱ぎ捨てられていた。黒いブラの肩紐が、ソファの背もたれから一匹の黒い蛇のように垂れ下がっている。桐生は薄い色のワイシャツを腕まくりして、ノートパソコンを膝に乗せ、煙草を片手に笑っていた。

「遅かったなお前。今、アルバムの整理してた。若葉が、子供の頃の写真、俺に見せてくれてさ」

そう言って桐生は、スマートフォンを手に取り、いくつかの画像をスワイプして見せた。海水浴場の写真だった。白い砂浜、打ち寄せる透明な波、そして鮮やかなオレンジ色の水着を着た若葉の姿。水着は胸元が大きく開き、細い紐が首の後ろで結ばれている。腰の両側の布面積は極端に少なく、くびれから太腿にかけて、普段は隠れている肌が惜しげもなく光に晒されていた。

「十月の終わりに、湘南まで連れて行ってやった。露出高めの、エロいマイクロビキニ。最初は『恥ずかしいからパーカー着てもいい?』とか言ってたけど、身体にオイル塗ってやったら、そのままにした。若葉、ああ見えて、肌を人前で見られるの、わりと嫌がらないだろ。だから、あの娘が実はすごく欲求不満だったってわかるんだよな」

桐生の話を聞きながら、俺は画面の中の若葉を凝視していた。若葉は砂の上に膝をついて、桐生に仰向けにされていた。桐生の大きな手が、彼女の鎖骨の下から胸元へ白いオイルを塗り拡げている。その手の動きが、単なる日焼けオイルを塗るものではなく、肉を隅々まで味わうための愛撫に見えた。若葉は目蓋を半分閉じ、唇からは微かな吐息が漏れていそうで、オレンジ色の布が胸の先端を押し上げていた。写真だけでも、彼女の呼吸が聞こえるようだった。皮膚の上で油が温まり、ぬるぬると滑る音が、耳の奥にくっついて剥がれなかった。

「こっちは、お前が知らない若葉。夫の目の届かない砂浜で、男の指にされるがままに油を塗られて、足の先からつま先まで、好き勝手に触られても、拒まなくなった姿。見たいだろ、田中。お前、目が血走ってるよ」

俺は黙ったまま、九つの画像を順番に消えていく光の粒みたいに閲覧した。桐生は指で画面を止めたり、拡大したりして、一枚ずつ解説を加えていく。若葉が桐生の膝の上に座って、首に手を回し、耳元へ唇を寄せているプリクラ写真。胸の谷間がくっきりと刻まれ、彼女の太腿は桐生の黒い水着の上に跨っている。その姿勢があまりにも自然で、俺は「この二人は何度もこうしてきたんだ」と視覚で思い知らされた。若葉の表情は、恥じらいながらも笑っていた。ただし、あの最初の頃、俺が彼女へ抱いていた「純粋な笑顔」とはまるで意味がちがう。快楽へ飼い馴らされた女が、男に所有される安心感に溺れて浮かべる、とろけ切った笑顔だった。

桐生が最後に見せたのは、映像データだった。十一月上旬、昼間の砂浜。白い波の音が、動画の中からしぶきのように立ち昇っている。画面は少し傾いていたが、若葉が海へ入る瞬間を捉えていた。彼女は後ろから桐生に抱きかかえられ、腰に手を回されながら、波打ち際へ裸足で歩いていく。小さな足が、ぬるい砂を踏んで沈む。波が来るたびに、若葉の足首からふくらはぎを白い泡が舐めていき、そのたびに、手を桐生の胸へ押し当てて、くすぐったそうに身を捩った。

映像の終盤、海の中、膝ほどの深さで、桐生は若葉の身体を正面から抱き寄せた。黒い腕とオレンジの水着。潮風が若葉の髪をねぶり、桐生の手は水の中で若葉の臀部を包む。若葉は、桐生の胸に顔を伏せたまま、自分の腹を男の腹へ重ね合わせていた。マイクロビキニのオレンジ色が、海水を含んで重たく肌へ貼りつき、太腿の付け根から水滴が続けて流れていた。桐生が耳元で何か囁くと、若葉は小さく頷いて、ほんの少し腰を揺らした。あの仕草に、俺の下腹部を熱い針で刺すような昂りが走った。夫の目の届かない海辺で、彼女は不特定の他人が泳ぐ明るい場所で、水の中、見えない部分を、男の手に弄ばれることに、恥辱を超えた官能を覚え始めている。

さらに桐生が送ってよこした写真には、海の家の更衣スペースと思われる壁を背に、若葉が上半身を反らして立っている一枚があった。オイルでてらてらした鎖骨から肩、腕の曲線が、薄暗い白熱電球の下で浮き上がっている。首元の細い紐が、喉に食い込んで、呼吸のたびに乳房のふくらみが持ち上がる。あの清楚な「若葉」を知っているのは、もう俺の記憶の中だけなのかもしれなかった。なのに、彼女の体に残るあの幼い骨格、細くて頼りない膝、あなたまかせの指先。そういう部分が、淫らに飼い馴らされた姿を、いっそう酷いものとして際立たせる。

十二月に入ると、風は肌を削ぐように冷たく、街の空気には冬の匂いが混じった。それでも若葉の格好は、寒さに合わせて地味になることはなく、むしろ肌を見せる面積を巧妙に増やしていた。喫茶店のシフト中、給湯室から戻った若葉が、薄手の白ニットの襟元を片手で引っ張りながら、こっそり汗を拭うのを俺は見ていた。ニットの下は、お揃いで買ってきたのか、桐生が好みそうな黒いレースのキャミソールがのぞく。腰を曲げると、膝上の短いスカートの後ろが、太腿の白さを斜めに割って、男たちの視線を集めた。

「若葉さん、最近、寒くないんスか。前よりだいぶ薄着ですけど」

声を掛けると、若葉は一瞬、俺の顔を見つめ、それから首を傾げて笑った。その笑い方が、前はもっと四角張っていて、息の抜き方が無邪気だったのに、今は口もとを淫らに窄める癖がついていた。

「寒いけど、だって、これ気に入ってるんだもん。ね、田中くんから見て、変かな」

「変っていうか……男の目を引くと思いますよ。あんま、そういうの、良くないって言うか」

俺がそう言うと、若葉はくすくすと笑いながら、指先で耳にかけた髪をいじった。そういう時、彼女の口元にはまだアヒル口の名残があった。けれど、あの頃のような「えへへ」じゃない。どこか挑みかかるような、乾いた色っぽさがあった。

「桐生さんは、可愛いよって言ってくれるの。ねえ、田中くん。桐生さんに触られると、ここが、じんってあったかくなるの。私、変なのかな……旦那に、申し訳ないのに、なおって言われたいの」

若葉は小声で、自分の鎖骨の下、胸の上のあたりを指先でなぞりながら、うっとりと目を細めた。その仕草には誇張がなく、彼女自身がその言葉を口にするとき、下着の中へ手を入れられでもしたかのような熱を息に込めていた。俺はエプロンのポケットに両手を突っ込み、爪を掌へ食い込ませた。若葉のネックレスが、鎖骨の上で鈍く光った。

十二月の半ば、バイト終わりに桐生が俺を呼び出した。店を出て、裏路地の自販機の前。白い息が、冷たい空気に長く伸びる。桐生はホットコーヒーの缶を俺へ押し付けて、人差し指で自分の耳を指しながら言った。

「昨日、若葉を家に呼んだ。お前、想像つくだろ。あの娘、今、自分の家で、夫に電話をかけながら、俺のチンポを後ろの穴に突っ込まれて、一時間もイきっ放しだったよ」

俺は黙った。寒さと、それから腹の底で燻る熱とで、指先が変なふうに震えた。

「若葉の旦那、昨日、仕事が早く終わって家にいたらしいんだ。普段なら『バイトで疲れた』だけで済む女が、昨日は声を殺しながら、玄関先で、壁に手を突いて、腰だけ突き出してさ。あれ、笑えた。ただし声は気持ちよすぎて我慢できてなかった。廊下の床に、あの女のマン汁が落ちて、犬みたいに舐めてやったよ。幼い顔して、ほんと、出来上がってるよな」

桐生の口調は軽快で、裸電球の下の肖像を嘲るかのように、すべてを笑いの種へと変えていた。けれどその中身は、若葉という一人の女の、夫への背信の記録だ。俺は缶コーヒーの熱を手のひらで転がしながら、若葉の家の玄関、ベージュの靴べら、ピンク色の小さなサンダル、その隣に脱ぎ散らかされた白いスニーカー、彼女の指が靴を脱ぐたびに冷たい廊下を鳴らす音、玄関に置いたままの鍵、全部を勝手に組み立てていた。私物が溶け込んだ生活空間に、桐生の影が入り込んで、若葉の身体を開いている。その絵面の卑しさが、俺の頭の芯をじくじくと患わせた。

その夜、俺は桐生から送られてきた音声データを、イヤホンで聴いた。ノイズ混じりの録音で、何をしているか、最初は分からなかった。だが、若葉の呼吸を耳にした瞬間、背中に冷たい手を押し当てられた。浅い息のあいだ、微かに「だめ、また……お尻、あつく、なってる……」と呟いている。湿った音が、ぴちゃ、ぴちゃ、と途切れ途切れに、耳の穴を撫で回す。その向こうで、遠く、男の声がした。桐生の声ではなかった。低く、穏やかで、むしろ頼りなげな調子。

「若葉、今日、何時に帰る? 夕飯、何が食べたいか考えとくよ」

それは電話越しの健一の声だった。マイクが拾った電話の向こうの音は、あまりに平凡で、その平凡さが背徳を際立たせる。若葉は、声が震えないように、口を何度か開閉してから、やっと答えた。

「ごめん、旦那。今日、ちょっと遅いかも。えと、ご飯は、昨日の残りでいいから……あ、やす、み……あ、ごめん、なんでもないの。じゃあ……おやすみ」

最後の「おやすみ」だけが、急に鼻にかかって、声の奥で涙が震えた。録音が終わると、まだ耳に彼女の熱い息の後味が残っていて、俺は、十一月の終わりに彼女が写真の中で見せた、鎖骨から胸へ伸びる汗の道を、ぼんやりと思い浮かべていた。身体の中心が嫌なほど脈打って、指先で触れると、すでに布の上からわかるくらい硬くなっていた。

十二月下旬、桐生がまた写真を一枚送ってきた。今度はそれが、先週末に撮られたものだと分かった。場所は、桐生の自宅のソファ。若葉は黒い短いドレスを尻の位置まで捲られ、桐生の膝の上に縦に座っている。片腕を桐生の首へ回し、もう片方の手は自分の口を押さえ、目はきつく閉じられていた。首の後ろのホックが外された黒いドレスから、乳房が半分、零れかかっている。桐生の左手は見えないが、ドレスの裾の中へ深く入り込んでいることは、若葉の腰の浮き具合で分かった。

写真の隅には、プリクラ専用機で撮ったらしい不自然に明るい色の一枚も添えられていた。二人が顔を寄せ、桐生が若葉の肩を抱き、若葉は恥じらいながらも笑っていた。額にはキラキラしたハートの落書き。頬の位置に、手書きの「大好き」の文字。彼女の口元は、いつの間にか、こうして他人の男と写るために用意されたような、薄く紅を引いた唇になっていた。

それから年が暮れるまで、俺は毎晩、若葉の写真をリピートした。十一月の海水浴の写真を拡大し、オイルで濡れた鎖骨の窪みをなぞり、海の家の薄暗がりで反り返った彼女の首筋を舐めるような動線を想像した。水着に浮かぶ乳首の位置、太腿の内側にぴったり貼りついたオレンジ色の布、その下の湿り。全部を想像できた。想像するたびに、俺の中で、若葉を汚したい欲求と、すでに汚された若葉を哀れむ気持ちが、一緒くたになって、単純な「恋慕」というものを、じわじわと食い潰していた。

大晦日の前夜、街は静かだった。窓を叩く北風が、どこかの家の雨戸をがたがた鳴らしている。俺の手の中のスマホには、桐生から届いた、たった一文が残っていた。

「次、正月の夜、あの女、旦那の隣で喘がせてやるよ」

俺は画面を見つめた。若葉の顔を思い出そうとして、思い出したのは、あの清楚だったはずの彼女の口が、快楽に歪んで開き、男の名前を呼ぶ、写真の中の顔だった。まだ身体は熱い。窓ガラスの向こうで、寒さが音になっているのに、この部屋だけ、濡れて疼いている。俺は、彼女の「愛してる」という言葉を、耳の中で何度も反芻しながら、来たる年の、夫のすぐそばで喘ぐ若葉を、もう数日前から想像して、硬くなりはじめている自分を持て余していた。

第6章 夫の近くで、愛を囁きながら

第6章のシーン

第6章: 夫の近くで、愛を囁きながら

年が明けてから初めてのシフトの夜、俺は喫茶店「花水木」のバックヤードで、桐生から一通のメッセージを受け取った。画面には短い文が並んでいた。

「今夜、若葉んち。旦那と娘は二階で寝てる。リビングでやる」

俺はスマートフォンを握りしめたまま、給湯室の隅でしばらく動けなかった。外では一月の冷たい風が、窓枠を細かく鳴らしている。店はとっくに閉まっていて、蛍光灯の白い光だけが、磨き終えたステンレスの流し台を照らしていた。蛇口から一滴、水が落ちて、金属を打つ音が妙に大きく響く。桐生の文面を目で追うたび、頭の芯が茹だっていくような熱が込み上げた。あの男は今ごろ、若葉の生活の真ん中に立っている。陽菜の小さな靴と、健一のスリッパが並ぶ玄関を抜けて、家族の匂いが染みついた廊下を歩いている。

自宅に帰っても、俺はコートを脱ぐ気にもなれず、ベッドの端に腰かけたまま、手の中の端末を見つめていた。桐生からの連絡は、その後も断続的に届いた。写真が三枚、それから短い音声が二つ。写真の一枚目は、暗いリビングの片隅で、床に敷かれた淡いベージュのラグの上に座り込む若葉の後ろ姿だった。長い髪が背中に散って、薄いルームウェアの生地が、肩から肩甲骨の線をなぞるように張り付いている。二枚目は、彼女の足元。白いスリッパから抜け出た片方の素足が、ラグの毛足を掻くように丸まっていた。三枚目は、部屋の隅に立てかけられた、子供用の小さな絵本と、積み木が数個、紙の箱から転がり出ているのが映っていた。

音声を再生すると、最初に聞こえたのは、衣擦れの音と、何かが擦れる微かなノイズだった。その奥で、若葉が息を詰める気配がある。息を吐く、吸う、また吐く。浅い呼吸が、だんだんと断続的になって、喉の奥で小さく潰れた音を立て始める。それは泣き声に似ていたが、涙の音だけではなかった。ぬち、と、唾液を含んだ指が何かを捏ねるような粘液質の気配が、録音の粗さを透かして耳へ這い込んでくる。

「やぁ……指、ふと……」

若葉の掠れた声がした。声は小さい。階上に眠る夫と娘を意識した、必死に押し殺した囁きだった。

「指だけじゃ、もう足りないの……お尻の、奥、触って……?」

その声を聞いた瞬間、俺は通話の向こうで何が進行しているのか、細部まで勝手に像を結んでいた。若葉はきっと、部屋の明かりを消して、テレビの待機灯の赤い光だけが浮かぶリビングで、自分からルームウェアの裾を捲り上げている。桐生に強いられたか、それとも自分で、なのかはわからない。けれど、あの小さな唇から「お尻の奥」という言葉が出るまでに、彼女が積み重ねてきた時間が、耳の裏でざらざらと音を立てた。

二月ものあいだ、俺は彼女の変化を、映像と写真と桐生の言葉で追いかけてきた。店の制服姿の彼女を知っている。白いブラウスの襟元をきっちり合わせて、注文を取るときに首を傾げ、ありがとうございました、と頭を下げる彼女を知っている。その同じ口が、今、夜の居間に満ちる沈黙を破って、男の指を欲しがっている。俺はベッドの上で、開いたままのコートの重みを腹に感じていた。もう、守りたい、と綺麗に思う瞬間は来なかった。その代わりに、もっと、はっきりと、彼女の崩れていくところを見たい、と下腹の奥が疼いている。そのことが、自分でも薄気味悪いほど腑に落ちていた。

しばらくして、桐生から着信があった。表示された名前を親指でなぞり、通話に出る。耳に当てた端末の向こうから、空気が揺れる音が届いた。部屋の遠くで、床の軋みと、照明のスイッチを誤って触る指先の音が混ざっている。

「田中、起きてたか」

桐生の声は、夜の静けさに紛れ込むにはわざとらしいほど落ち着いていた。

「……何してるんスか、今」

「二階で旦那が寝てる。子供も隣の部屋で寝息立ててる。今、リビングの床に、お前が好きな若葉が俺の指咥えてるとこ」

「そんなの、あんたが呼んだんスよね」

「違う違う。若葉が自分で、今日は家に来てって言ったんだ。旦那が忘年会で遅くなるから、寂しいから、来てほしい、ってな。子育てしてる奥さんの寂しさって、ほんと怖いだろ」

桐生は愉快そうに、しかし家族を起こさぬよう口元を窄めて笑った。その笑い声の合間に、通話の奥で、若葉の短い吐息が混じる。衣擦れの音が、跳ねるようにして途切れた。

「ちょっと、電話、やだ……田中くんに、聞かせないで……」

若葉の声が、遠くで上ずった。顔を背けているのだろう、声がこもって、顎を引いている気配があった。

「お前、今の拾われたぞ。この部屋、意外と声が通るから、上の子が起きたらどうすんだよ。それとも、起きてもいいのか。起きたら、よその男に指を突っ込まれている母親の尻、って言って抱き上げてやろうか」

「違う、やだ、陽菜は……っ、ん、ちくび、つままない、で……ぁ、あっ……」

若葉の声が、電話越しに官能の深い場所から絞り上げられた。耳元で、ぷち、と湿った指が乳首から離れる音がした。その音の生々しさに、俺の指先は自然と、スウェットの上から膨らみかけた己の中心へ伸びていた。触れるか触れないか、という場所で、俺は手を止める。自分の息が、電話の送話口を塞がぬよう、唇を手の甲で覆った。

「おら、田中、想像しろよ。今、若葉はベージュのルームウェアのズボンを片足だけ脱いで、下着を太腿の真ん中まで下ろしてる。白いコットンのやつ。真ん中、もう縦に色が滲んでて、糸引いてる。腿は閉じようとしてるけど、俺の手が入ってて、閉じれない。おまんこ、くちくち言ってるの、わかるか?」

桐生が一方的に実況を続ける。俺は何も返せなかった。返す言葉の代わりに、自分の中心を包み込んだ手の感覚だけが、夜の布団の中で熱を持っていく。桐生の声は、まるで俺の耳に直接、若葉の身体の熱を刷り込むように、低く滑らかに響いた。

「指、二本入れてる。中、もう熱くて、締まるのに、ぐちょって音がする。若葉、自分で、俺の指を押し込もうとしてる。お前、旦那が二階で寝てるって思うと、指だけで乳首つんって立つだろ。いいよ、その顔、最高。ああ、そうだ。これ、見せたいなあ。スイッチ、カメラにするか?」

「やだ、それ、本当にやだ……桐生さん、私、写真撮られるの、なんか、むり……ああっ、なんで、そこで、まげるの……!」

若葉の悲鳴になるかならないか、という瀬戸際の喘鳴が、通話口から溢れた。ぬち、ぐちゅ、と、液体が絡みつく音は、電話のスピーカーを通しても、鮮やかな熱を帯びている。彼女の濡れた場所を桐生の指が擦るたび、声は細かく引き攣れて、息を吐く隙間から「は、ん、ふ、あ」という断片的な吐息が漏れた。

私は悪い。けれど耳は、彼女の恥辱を一滴残らず舐め取りたがっている。左手の端末を落としそうになりながら、俺は右手の動きを徐々に強くした。視界にはもう、一人部屋の壁紙も、折り畳まれた洗濯物の山も映っていない。頭の裏では、薄暗いリビングの床に開かれた若葉の白い腿、片足だけ引きずり下ろされたコットンの下着、そして桐生の節立った手が、彼女の花弁を割り開いて、熟れた内襞へ沈み込んでいく光景が、生々しくちらついていた。若葉の二本の足は、床の上で何度も逃げ道を探して、爪先がせわしなくラグの毛を掻いた。その動作まで、俺はこの三ヶ月の映像で知っている。

「なあ、健一さんは、今ごろなに夢見てると思う? 奥さんが、一階でお前らの指くわえ込みながら、よその男の事ばっかり考えてるとも知らないで」

「ちが、う……」

「違わないだろ。お前のここ、耳元で『旦那』って囁かれるたびに、きゅって締まる。この段階で、なんの反論も意味ないって。な、若葉、お前がいくら夫を愛してるとか言ったって、身体は全部、俺の指の味を覚えてる。……二階で寝てる奴に、一言、声聞かせてやろうか?」

桐生の提案へ、若葉は声にならない息を吐いた。電話の向こうで、床が軋んだ。小さな振動が、通話の遠いノイズに変わって伝わる。若葉の背中がラグの上へくずおれる。擦れた肩甲骨が衣類越しに床を鳴らす。彼女の呼吸が、いよいよ規則を失った。

「……むり、声、だせない。旦那には、ばれちゃ、だめ……あ、んっ、お尻の、中、指、いっぱい、くすくす、されて……あ、や、そこ、掻き回し、たら、おまんこの、前、まで、じんじん、して……ゃあ、も、だめ……」

「声出せないなら、こっちはどうする? 俺が今から、お前の膣の中に、旦那の知らない形を刻んでやる。お前の身体、ぜんぶ俺ので満たして、そのうえで旦那に電話して、愛してるって言ってみせろよ。そしたらお前が、どっちの男に抱かれているか、はっきりわかる」

俺は電話越しに、桐生が自らのベルトを抜く音を聞いた。金具の擦れる冷たい響きと、布が脱ぎ落とされる重み。若葉が、小さい悲鳴を噛み殺して、ラグの上を後退る気配があった。けれどすぐ、桐生がその細い腰をひき戻す。腿を割り開かせる力の動きが、空気を圧して、通話口の中でぐらりと膨れ上がった。

「やだ、待って、こんな、床の上で……、あ、あっ、先、あたってる、熱いの、そこ、まだ、ひらいてな……ぃ、のに、ぁ、入って、くる……っ」

若葉の声が、内側から押し開かれる苦しみに震えた。ぬちゅ、ぬぶ、と、窄まりが亀頭を食み、ゆっくりと男の怒張を収めていく音が、受話器の中を濡らした。若葉が喉を反らし、背中を床へ打ちつけたのだろう、どん、という鈍い衝撃が通話口の奥でくぐもった。挿入の深い場所から、圧縮された吐息が絞り出される。

「あ、は……奥、すごい、くる……だめ、これ、声、がまん、できない……」

「旦那を思い浮かべろよ。それで、締めろ。上で寝てる男に、お前が今、誰の子供を孕むかわからない場所へ、俺の中を注がれる、その瞬間を聞かれないようにな」

桐生の声は、俺へ向かって囁いているのか、若葉へ向けて言っているのか、その境目がない。俺は端末を耳に押しつけ、利き手の動きを荒くしていた。ぬくぬくと湿った音が、電話の向こうから幾度も押し寄せる。ずち、ずぶ、ぬぽ、と、栓を抜くたびに粘液が空気を含んで弾ける。俺の手の中の自分の肉茎も、先走りでべとつき始めていた。部屋は暖房の匂いに、自分の性急な息が混ざって、重く沈んでいく。

やがて、桐生が低く笑った。

「今、お前の好きな若葉、旦那のタバコ置き場の前で、四つん這いになって、俺の腰を尻で追いかけてる。携帯、取ってやった。履歴、夫。これ、かけろよ」

「そんな、無理……無理なの、お願い、それだけは……あ、あぁ、腰、やめ、ずん、ずん、って、奥、まできて……おく、ひらいて……あっ、や、スマホ、渡さないで、あ、あ、指が、ふるえ、て……あか、ん、押しちゃ……」

通話の向こうで、電子音が小さく鳴った。コール音。三回、あるいは四回。寝室で眠っているのだろう健一が、もそもそと動く衣擦れが、スピーカーの向こうへ流れた。

「……もしもし、若葉? どうした」

健一の寝ぼけた声が、電話の向こうに生まれた。俺の耳は、この平凡で、優しげで、何の疑いも持たない声を聞いた途端、脈が跳ね上がるのを抑えられなかった。二階の寝室。家族の柱。その声のすぐ横で、若葉は今、見知らぬ若い男の肉茎を、自分の膣の奥深くまで咥え込まされている。

「……もしもし、わかば?」

若葉は答えなかった。数秒の空白。ただ、彼女の息遣いだけが、送話口に吹きかかって、真空音を生む。通話越しに、ぬち、ぬち、と、肉が肉を吸う音が混じる。

「……あ、もしもし、旦那……ごめ、ん、今、ちょっと、手が……わた、し、今、ひる、おきて……あ、あの、たいしたこと、じゃ、なくて……ちが、うの……っ」

「どうした? なんか、息が荒いけど。悪い夢でも見たか?」

「ん、そ、そう、かな……ね、旦那……あのね、私、あの……んっ、すこし、すこしだけ、さびしくて……でんわ、しちゃった……」

濡れた音が、言葉の合間にきしる。桐生が、わざと若葉の腰を抱え直し、奥をゆっくりと抉っているのがわかった。ぐぷ、と、子宮口を押し上げる音が暗がりで鳴る。若葉は、小さく喉を詰まらせ、手のひらで口元を覆ったのだろう、吐息がくぐもった。

「寂しくて、電話かけてきたのか。今年に入って、残業が続いたからな。ごめんな。明日は早く帰るよ。そしたら、ちゃんと話そう。もう遅いから、お前も早く寝なさい。陽菜は? さっきまでグズってなかったか」

「ひなは……だい、じょうぶ……ぐっすり、してる……から、えっと、旦那、わたし……ねえ、聞こえるかな……。あのね、私、いま……あばれ、そうなくらい、苦しいんだけど……うまく、いえない……が、まん、できてない、かも……」

「腹痛でも起こしたか? ちょっと、無理するなよ。こっちから、何か買って帰るから」

「ううん、そうじゃ、ないの……、ただ、ごめ、なさい……私……旦那に……私、私、……あい、してる……」

そう言ったきり、若葉は声を震わせ、通話を終了した。最後の「あい、してる」が、鼻声で、泣き出しそうな熱を帯びていた。俺は受話器を耳に押しつけたまま、下唇を噛んで、指を止めた。通話の向こうでは、切れた電話の余韻だけが、真空にくすぶっている。

「……よく言えたじゃん。最中に、んだよ、あの、濡れた息。最高だよ。お前の身体は、旦那に愛してるって言いながら、俺のを膣で搾ってる。もう、わかったろ。お前がどんなに愛してたって、こっちの快楽には逆らえない。お前の奥、今、熱いの、全部、旦那の腕の中じゃ得たことないやつだろ。俺を知る前には、考えられなかったやつ」

言葉には応えず、若葉はただ、床の上で喘いでいた。桐生の律動が、電話の向こうで、律儀に濡れた音を刻んでいる。ぱちゅ、ぱちゅ、と、恥骨が彼女の尻肉を打つ音、肛門のひくつきを知らせる空気の揺れ。挿入のたび、彼女の膣から泡立つ蜜が、絨毯に垂れているはずだと、俺は想像した。長い、獣じみた夜だった。

「……声、もっと出せよ。旦那を安心させた直後に、この太いのが奥を突き上げるって、お前の身体だけは知ってるんだから」

「ひ、あぁ……あ、だめ、だめ、奥、いま、そこ、押し、ちゃ……らめ、おまんこ、おく、きもち、よすぎて……し、ぬ……う、ああっ! あっ、あっ、ひぅ、んっ……」

若葉の嬌声が、もはや押し殺すこともできず、電話のスピーカーを震わせた。唇が唾液で泡を噛むような、言葉を失った絶頂の気配。肉と肉との隙間から溢れる透明な蜜が、くちゅ、ぐちゅ、と、耳を溶かす。俺は、若葉の白い喉が仰け反り、舌が薄く差し出されて、目尻から涙が一筋、耳のなかへ流れるところを、痛いほどの解像度で見てしまっていた。今さら動画がどうこうというよりも、彼女の悦びを音だけで、こんなにも生々しく知覚してしまう。

「中、出すぞ。今日は、やめとけとか、言わないよな。二階で、お前の籍と子供が寝てるのに、出されたいんだろ。お前の子宮、今、先っぽに、きゅって吸い付いてきてる。お望みどおりに、一番深い場所へ、注いでやる」

「だめ、なか、は……ぁ、でも、おく、きもちよくて……こ、え、でない……あ、あ、あ、あっ……くる、きちゃ、だめ、あっ、中に、欲しい、ほしい……おくに、ちょうだい……っ」

桐生の低い吐息が、ごく短く詰まり、若葉の歓喜の金切り声が、夜中でなければ絶叫だっただろう高さで、受話器の奥に砕けた。どびゅ、どぷ、ぶびゅ、という、粘液の奔流が広がる感覚。俺はその音を聞きながら、追い立てられるように自らの下生えの中を擦り上げ、最後の数回を我慢できずに吐き出した。腹の下で、熱い飛沫となって広がるのを、他人事のように感じていた。

しばらく、通話の向こうで、二人の呼吸が、床の上で冷めていくのが聞こえた。若葉が何度も「……やだ」「……いや」と消え入りそうな声で繰り返し、桐生が「これで、お前はもう、前よりずっと俺のものだよ」と囁いた。その全部が、電子の海を渡って、俺の部屋の薄汚れた空気に混ざっていった。

電話が切れた後、俺はベッドの上で長いこと動けなかった。スマートフォンの画面は黒く沈み、耳の奥には、彼女の声が残っていた。夫へ向けられた「あいしてる」と、快楽へ砕けた嬌声とが、同じ舌から零れた、という事実だけが、少しも形を変えずに、俺の身体をじりじりと責め続けた。窓の外では、一月の風が弱まり、空の色がわずかに白み始めていた。眠れないまま、俺は目を閉じ、若葉の、あの小さなアヒル口が、笑みのかたちから喘ぎのかたちへ移ろう瞬間を、何度も何度も繰り返し思い描いていた。彼女は夫を愛している。それでも、いや、それゆえに、あの夜の彼女は、あれほどまでに美しかった。俺の陰茎は、吐き出した後もなお、布団の中で微かな収縮を繰り返していた。

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読み終えたあとの余韻に。

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登場人物
  • 田中 たなか
    男性 ・ 20

    外見: 短めの黒髪、焦げ茶の瞳、細身だが肩幅はある。服装: 古着のシャツにチノパン、安いスニーカー。誠実だが気弱で、自己嫌悪に陥りやすい。若葉への恋心と、彼女が堕ちる様を見たいという倒錯した欲望の間で葛藤する。

  • 若葉 わかば
    女性 ・ 22

    外見: 肩下までの柔らかな栗色の髪、琥珀色の瞳、小柄で華奢だが胸と腰は丸みがある。服装: 白いブラウスにベージュのカーディガン、膝丈スカート。天然で無防備、押しに弱く断れない。夫を一途に愛していたが、隠れマゾの性癖を遊び人に見抜かれる。

  • 桐生 きりゅう
    男性 ・ 25

    外見: 短く整えた濃い茶髪、切れ長の黒い瞳、長身で筋肉質。服装: 黒のタンクトップにライダースジャケット、細身のデニム。女癖が悪く、女を堕とすことをゲームとして楽しむ。支配欲が強く、相手の堕ちていく過程を観察するサディスト。

  • 健一 けんいち
    男性 ・ 32

    外見: 短い黒髪に白髪混じり、優しげな茶色の瞳、中背でやや痩せ型。服装: 紺のスーツに白シャツ、地味なネクタイ。妻を愛しているが性欲は淡白で、仕事に追われる日々。妻の変化に気づかない鈍感さがある。

  • 陽菜 ひな
    女性 ・ 1

    外見: 柔らかな栗色の産毛、黒い瞳、ぷくぷくした頬。服装: 淡いピンクのベビー服。まだ言葉を話せず、笑顔と喃語で感情を表す。母である若葉の腕にしがみつく。

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